薬ってなんだと思いますか?

 

薬が存在すると、病気は治るものだと考える人が多いように思う。

ただの化合物によくそこまで夢が見られるものだ。

薬とは、病気を引き起こす標的タンパク質と結合しやすい化合物の中で、

標的以外のタンパク質と結合しにくく、

溶解性や膜透過性などの物性が良い物のことだ。

それ以上でもそれ以下でもない。

標的以外のタンパク質とは結合しにくいが、完全に結合しないわけではないので、

だいたいどの薬にも副作用がある。

 

メンタル系のお薬や最近流行りの免疫関係の抗体は特に複雑だ。

脳内に侵入し易い比較的小さい化合物や浅いタンパク質のポケットに結合する巨大化合物を必死に探して薬として扱っている。

我々の身体の中身は複雑なネットワークになっていて、

メンタルの薬の多くは、標的となるタンパク質がわからないものも多い。

人間と動物で標的となるタンパク質がよく似ている場合、

動物実験から研究開発を進めることが可能だが、

そもそも標的がわからなければ、動物実験が有効かすらわからない。

巨大化合物は、通常の方法で大量に合成することが難しく、生物に作らせるしか手段がない。

そういったわけで、薬の開発には莫大なコストがかかる。

研究開発を今後も進めるためには、薬の値段を上げざるを得ないのだ。

 

これがままならなくなっている分野がある。

抗菌剤開発だ。

新規製剤を開発しても、菌類はすぐに耐性菌を生み出して、無効化してしまう。

次々と新しい薬を開発しなければならない。

薬を販売しても、コストが回収できない。

現在世界中で多剤耐性菌の問題が出てきているが、

これに対抗する薬を開発している会社はほんの一握りだ。

多くのメガファーマは儲からない抗菌剤開発からすでに手を引いてしまっている。

菌類が人類を滅ぼす日は目前に迫っている。

 

薬ってなんだと思いますか?

 

薬は化合物です。

薬品開発の影には必ず研究者が存在します。

科学者は魔法使いではありません。

彼らは地道に薬を探し出しているのです。

標的タンパク質に化合物を片っ端から加えて、

少しでも結合するかを確認していくのです。

標的タンパク質は構造すらよくわからない事もあります。

どんなものがくっつくのか見当がつかないことも多いです。

せめてタンパク質の形がわかればと、何年もかけて構造解析を行っている人たちもいます。

一人の科学者が、生きている間に関わった薬が一つでも製品化すれば幸せだと言われているそうです。

 

薬品開発の影には必ず犠牲になった動物が存在しています。

薬害はあってはなりません。

そのために、数種類の動物で有効性や毒性試験を行うのです。

遺伝子操作によって癌化させられたマウスや、人間の数千倍や数万倍の試験品を投与されるチンパンジー。

彼らの死を経て、薬は人に投与されるのです。

薬って魔法でもなんでもないんですよ。

 

薬ってなんだと思いますか?